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深海研究所 Part 6 クロムツ



第6話 クロムツ

ボウズ覚悟で狙うのは2kg~5kg超の「大」サイズ。緋色ターゲットの様な華やかさはないが、海面下に金茶色の魚体が揺らめく時の高揚感は尋常ではない。釣趣、サイズ、味覚に希少性。大型黒ムツは「黒いダイアモンド」と呼ぶに相応しい魅力を有するターゲットだ。



クロムツの釣場

黒ムツ釣りは中型狙いと大ムツ狙いに大別される。ここでは中型狙いは専門の遊漁船が出る釣場、大ムツは専門の仕立船にヘビータックルキンメ船で狙える釣場も含めた。沖縄ではハマダイ(オナガダイ・現地名アカマチ)釣りに大型が混じるが、ゲストフィッシュの括りのため本項では除いた。

中型
千葉県御宿~千倉沖
千葉県冨浦~勝山沖
東京湾口沖ノ瀬
神奈川県剣崎~城ヶ島沖
静岡県初島沖
静岡県石廊崎沖
静岡県子浦沖~安良里沖
静岡県清水沖
三重県大王崎沖
和歌山県白浜沖

大ムツ
千葉県洲ノ崎沖~東京湾口沖ノ瀬
神奈川県真鶴沖
静岡県八幡野沖
東京都大島沖・利島沖・新島沖
和歌山県白浜沖
高知県室戸沖・足摺岬沖



①中型狙い
千葉県の外房~南房、静岡県南伊豆、三重県大王崎沖など水深150~200mの比較的浅所を中心に35~45cm・1~1.5kg前後の中型個体をメインに据えた釣り。外房~南房では古くからフラッシャーサビキを使うご当地釣法が知られる。多くの場合は早朝が勝負で鬼カサゴやイカなど他の中深場釣りとの2本立てが基本となるが、曇天や濁り潮では長時間喰い続く事も。これとは別に東京湾口など水深250~350mラインで終日狙うケースも有り。使用錘は150~200号中心に、湾口などの深所では250号(以上)。

タックル

ロッド

6:4~7:3調子の2~2.3m、錘負荷表示120~250号のグラスチューブラー素材のアカムツ、中深海、青物用。深所で使用錘が250号を超える場合は後述大ムツ用LT深海ロッドをセレクト。
アルファタックル適合モデル
ディープオデッセイ アカムツ220
ディープインパクト カイザーT
ディープオデッセイ モデルT
HBアカムツ180・200・230
デッキスティック フルアームド 73-202・232・203
デッキスティック フルアームド 64-222

リール…水深200m程度ならPE6号300mキャパシティーの3000番、500番にPE4号(アカムツ用)で可能だが、300m前後を釣る場合は同ポイントに多いクロシビカマス(スミヤキ・ヨロ)やタチモドキの縄切り禍も踏まえ、ワンサイズ大きい6000番、800番の使用が望ましい。

仕掛… 鈎数5~6本のベーシックな胴突仕掛が基本。鈎は特殊形状でムツやクロシビカマス、タチモドキのの鋭い歯によるチモト切れを抑える「ホタ」16号がお勧め。ハリス8~10号70cm~1m、幹糸12~14号1.5~2m。捨て糸は8号を1~1.5m程度。 仕掛上部のヨリトリ器具はフジワラ「深海用リングSS」やなど小型の物で可。大型錘の深所は「深海用リングS」でも良い。 フラッシャーサビキ(エサを付けず単独使用が基本)の釣りでは船宿の物を購入が無難。ヨリトリ器具は「チビリング」や「5連ベアリングスイベル」など。 錘は特に指定がない場合は根掛りや縄切り禍で海底に残っても環境への負担が少ない鉄製のフジワラ「ワンダーⅠ」を推奨する。

アピールグッズ…以前は「ムツは光り物を好まない」とされ、アピールグッズを配さないシンプルな物が中心だったが、現実には筆者各地の釣りで水中灯や深海バケなどアピールグッズに実績あり。決してデコレーションNGではない。胴突仕掛に配すギミックは後述大ムツに準ずるが、ハリスに通す「マシュマロボールL」は基本1個。

深海バケ…藤井商会「フジッシャー毛鈎ホタ16号」がお勧め。実績カラーは紫、橙、紅色、ピンク。

エサ…魚体サイズにもよるがサバ、ソウダガツオ、スルメイカの短冊は幅1cm、長さ10~13cm程度にカットし、中心線上のなるべく端をチョン掛け。同サイズのサンマ短冊(千葉県勝浦沖では使用禁止)は身を削ぎ、銀色の腹側先端(尾部は尾鰭付根)を縫い刺しする。カタクチイワシや小振りのマイワシは下顎から上顎にハリを刺し通す。ニッコー化成の匂い付イカタン型ワーム「ロールイカタン150cm」は同等サイズにカットし、単体での使用が基本だ。

その他のギミック
サメ被害軽減装置

サメによる奪い喰いが多発する場合は仕掛上部に「海園Ver.2イカ直結用」をセットする事で被害軽減が期待出来る。②水深200m以深の釣りその他のギミックの項で詳しく解説。
磁石板
全ての釣場で手前マツリ防止に有効。船に設置されていない場合は持参がお勧め。使用する鈎数に応じて長さをセレクトする。



②地先の大ムツ狙い
神奈川県真鶴や静岡県東伊豆、東京湾口沖ノ瀬などの「大ムツポイント」で大型専門に狙うスタイル。基本的に仕立船の釣りとなる。4~5kg超の大物も期待できる半面、基本的にボウズ覚悟の「ハイリスク&ハイリターン」。確実性を望む向きにはお勧めできない釣りだ。

タックル

ロッド
6:4~7:3調子の2~2.3m、錘負荷表示150~300号のLT深海ロッドがベストマッチ。確実な底取りと明確な目感度、身餌を適度に躍らせつつ口切れバラシを抑える絶妙な復原力を兼ね備えたグラスチューブラー製が一押しだ。錘を海底から1~2m浮かせてアタリを待つため、オニカサゴやアコウダイには必須条件である「底トントン」を積極的に演出する事はしない。バラシを抑える事を最優先に考え、使用錘に対し「ややライト」を意識したセレクトがセオリーだ。

アルファタックル適合モデル
ディープインパクトLight220
ディープインパクトTERUスタイルRT-0
ディープオデッセイ モデルTT

リール…PE6号を600m以上巻けるモデル。縄切り魚による道糸切れはある程度避けられず、水深の2倍はラインを巻きたい。真鶴や東伊豆での「お約束」大型バラムツやツノザメを短時間で巻上げ、タイムロスをカットするハイパワーも必要不可欠。ミヤエポックAC-3JPC、S社6000番、D社800番

仕掛…鈎数4~6本の胴突仕掛。ハリス14~16号1.5~2.5m、幹糸20~24号3~5mと長めの設定。捨て糸は10号1.5~2m。鈎はホタでKINRYUなら17号、藤井商会は18号。
余談だがこのハリは筆者が二十数年前、神津島のクロムツ漁師に勧められて「漁業用」を大ムツ釣りに使い始めた物。その後廃番となるが、特殊な形状でムツやスミヤキによる「チモト切れ」が皆無に等しく、鈎外れもし難い利点は捨てがたく、製造所に頼み込んで特注生産。これにフジッシャー加工を依頼した藤井商会が「16号」を発売し近年のアカムツブームでニーズが拡大、複数メーカーから15~20号が再販の経緯がある。
神奈川県真鶴岩港「緑龍丸」のオリジナル仕掛はハリスチモトから50cmの位置に発泡丸シモリを配すが、この仕掛は船縁にハリを並べ、オモリを放り投げる一般的な方法や掛枠ではスムーズに投入出来ないため、以下の手順をとる。

  1. 両人差し指に指サックをはめる。
  2. 順序良く船縁に仕掛を並べる。
  3. 一番下鈎の位置に立ち、ロッド側を向く。
  4. 海側の人差し指に捨て糸を掛けてオモリを吊し、船側の手は一番下のサルカンを握る。
  5. 合図と共に錘を海中に入れ、海側の手で下鈎ハリスのチモトに近い部分を摘み、鈎を軽く前方に投げ込む。
  6. 船側の手のホールドを緩める。海側の人差し指で素早く幹糸を掬い上げるようにし指サックの上(指の腹側)を滑らせる。
  7. 2番目のサルカンが船側の手に触れた所で再びホールドし、
  8. 海側の手でハリスのチモトに近い部分を摘んで、下から2本目の鈎を軽く前方に投げ込む。
  9. 以降繰り返し行い、投入完了。

この際のポイントは投入しながら、船縁に沿って自分がロッドに近付いて行く事。投入開始時の立ち位置はロッドから遠いが、終了時点ではロッドのすぐ横となる。 尚シモリ玉を配さない一般的な仕掛(マシュマロボール使用も含め)を使用する船では単純な投げ込み、掛枠での投入も可能。
仕掛上端にはフジワラ「深海用リングS」等の中型ヨリトリ器具と水中灯を配す。
錘は300号が標準。根掛りや縄切り禍で海底に残っても環境への負担が少ない鉄製のフジワラ「ワンダーⅠ」を推奨する。ただし「船宿指定の錘を使用する」という事も付け加えておきたい。

集魚ギミック

深海バケ…藤井商会「フジッシャー毛鈎ホタ18号」が適合。実績カラーは中型同様の紫、橙、紅色、ピンク。

エサ… 身餌はサンマ半身の斜め半割ビッグベイトをメインに、幅1.5cm、長さ15~20cmと大振りにカットしたサバやソウダガツオ短冊、開いたスルメイカの胴を縦方向にカットし全長の2/3程スリットを入れた大振りの短冊など。サンマは胸鰭の付根、尾鰭の付根を利用してハリ掛けし、他の短冊エサは中心線上のなるべく端をチョン掛けにする。
特餌とされるのがスルメイカ肝付ゲソを眉間から半割、5本のセンターとなる鰭脚に鈎掛けする「肝付ゲソ半割」。特にサンマ使用禁止地区では有効なベイトだ。

他にヒイカや小型ヤリイカの一杯掛け(胴先端付近をエサ持ちを考慮して軟甲を貫く縦方向に鈎掛け)やイワシ1尾掛け(下顎から上顎に鈎掛け)なども使用される。また春先は手に入れば活ムギイカを使用する場合も。この場合鈎は胴先端横のエンペラを縦方向に刺し通す。
疑似餌はニッコー化成「ロールイカタン150cm」を身餌同等の長さにカットして使用。 ニッコーベイトは東伊豆八幡野沖での船長試釣での5kgを筆頭に、複数の大ムツキャッチの実績あり。 

終日交換不要で手指や船も汚れず、常温保存でOK。サメのアプローチが少ない利点もある。

その他のギミック
サメ被害軽減装置「海園」

「海園Ver.2イカ直結用」をヨリトリ器具の下に接続して使用すれば宙層の奪い喰いだけでなく、海底でのツノザメアプローチ軽減も期待できる。
磁石版
ロングハリス仕掛の手前マツリ防止に極めて有効なギミック。船に設置されていない場合は持参がお勧め。基本鈎数が少ないので短い物でOK。



③大ムツ ヘビータックルキンメポイントでの釣り
東京都新島沖、東京都大島沖、和歌山県白浜沖などの大ムツが混じるキンメダイ釣場で専用仕掛を使用、若しくはキンメ仕掛の下鈎数本にビッグベイトを配して狙う。キンメ釣りの余禄をより高確率で、のスタンスとなる。

タックル

ロッド
ヘビータックルキンメの流用。使用オモリに対し「やや負け気味」となるグラス素材の深海専用ロッドをセレクト。巻上時の復原力を抑え、口切れに配慮するのがセオリー。 口切れを抑えるクッション効果と、竿が絞られる見た目の面白さは長い程優れるが、捨てオモリ式の新島沖では上潮が速いと取り込み時にラインが前方に流れ、ロッドが長いと「ラインを掴むのに一苦労」する場合が。これら条件を踏まえると2m程度がベストレングス。 

アルファタックル適合モデル
ディープインパクト カイザーG
ディープオデッセイ モデルG
ディープインパクトTERUスタイルRTⅠ
ディープインパクトTERUスタイルSⅠ
スーパーディープクルーザーⅠ
リール…高強度PE10~12号を1,000m以上巻いた大型電動リール。ミヤエポックZ9~Z15サイズが基本。

仕掛…ハリス16号1.5m、幹糸24~30号3m。鈎はホタでKINRYUなら17号、藤井商会は18号。 このスペックで

  1. 10本鈎の大ムツ専用バージョンとする(全鈎大ムツ用ビッグベイト)
  2. キンメ仕掛下部数本を大ムツ仕掛に差替える(ムツ仕掛部分にビッグベイト)の2パターンと
  3. キンメ仕掛のまま下鈎数本をムツ用ビッグベイトにする3つの方法がある。

捨て糸は釣場や船宿により指示が異なるが、12号を3~9m。14号を使用する場合は捨て糸を切り易い様、ダンゴ結びでコブを1箇所造っておく。これ以上太い号柄は捨て糸をカットする際、リールのギアやロッドに無用な負荷を与えるだけなので、使用しない。
上端にミヤエポックヨリトリWベアリング」「キャラマンリングⅡ型」などの大型ヨリトリ器具+ヤマシタ「ゴムヨリトリ」5mmφ1mを配す。錘は船宿用意の鉄筋、若しくは船宿指定重量のフジワラ「ワンダーⅠ」を使用する。 ただし「船宿指定の錘を使用する」という事も付け加えておきたい。

集魚ギミック
ルミカ「クアトロレッド」等の赤色発光体を仕掛上部、若しくはセンター付近に配すと効果的。但し潮の動きが鈍い際にはカラスザメを引き寄せる事も。状況に応じたフレックスな対応が必要だ。ハリスにはヤマシタ「マシュマロボールL」を配し、浮力とフォール時の抵抗を利用してアピール。深海バケと併用の際は双方のカラーをリンクさせる。また各鈎にニッコー化成「激臭匂い玉7Φ」を配すのがディープマスター流。

深海バケ… 藤井商会「フジッシャー毛鈎ホタ18号」が適合。

エサ… 地先の大ムツに準ずるが、東京都新島沖ではサンマ餌の使用が禁止されている。

その他のギミック
サメ被害軽減装置「海園」

巻上開始の時点で「海園Ver.2」のカラビナを道糸にセット(引っ掛ける)して海中に投下する。中型・地先の釣りと同様に「Ver.2イカ直結用」をヨリトリ器具直下に配してもOKだが、特に「根切り前提」の新島沖では根切時の仕掛ロストやライン切れリスクを考慮した「巻上時セット」が得策だろう。
磁石版
回収再使用が前提の場合は必須。「一投使い切り」基本のヘビータックルキンメ船には装備されていない事が多く基本持参。鈎数に因るが長さ1~1.5mの物が使い易い。



実釣テクニック
①基本スタイル(中型・地先大ムツ共通)
投入は釣場や船により「一斉」や「順番」があるので、事前に確認の事。
オモリが着底したら素早く糸フケを除き、錘を海底から1~2m(船長指示があればその高さ)上げた状態を維持してアタリを待つ。ポイントの多くは荒根で、カケ上がり、若しくは下がりを攻めるケースが殆ど。維持は「放置」ではなく根掛りや宙ブラリンを避けるべく、底ダチをマメに取り直す事をであり、同時にこれが誘いのムーブに繋がる。

竿先を叩くムツのアタリは明確。中型狙いでは喰い上げるケースも有るが、大型でアタリの後に煽り(や大きな糸フケ)が出ない事がエキストラのバラムツとの識別ポイントとなる。
中型はカケ上がりや喰い上げなら幹糸間隔分、又は糸フケ分を順次巻き取り、ほぼ平坦ならそのまま、下がりで深くなる様なら順次底を取り直しながら、それぞれ追い喰いを促して一度に複数を鈎掛けするよう心掛ける。

対して一日粘ってもワンチャンスすら訪れない可能性もある大ムツ狙いでは本命と確信できるアタリが訪れたら、速やかに巻き上げるのが得策。
巻上はドラグを調整した中~中低速。強引な巻き上げは論外だが、必要以上のスロー巻きも魚が暴れて鈎穴が広がり、外れの原因となるのでNG。大ムツは(水深や個体による差もあるが)250m前後で一際激しく抵抗。ここで外れる事が多いので要注意。

100mラインの釣りでも最後は体内のガスが膨張して海面に腹を返すので、取り込みを慌てる必要はない。大ムツの場合、巻上が終わって糸を掴んだ掌に錘の重さを感じなければ本命のサイン。程無く海面に泡が弾け、金茶色の魚体が浮かび上がる。
中型の取り込みは魚が重なり合わないように注意して一旦仕掛を全て船内に取り込んでから処理しても、外しながら仕掛を並べてもOK。各自やり易い方法を取る。

長大な大ムツ仕掛は順序よく並べながら取り込んで行かないと再使用が不可能となる。空鈎は船縁に並べ、魚はイスの内側に取り込む(キャビン横の釣座は不可能だが)ようにすれば、仕掛がグシャグシャのトラブルを防げる。シモリやマシュマロボールは同カラーを連続させず、順番を覚えておけば万一取込時に鈎が交差しても容易に認識できる。

黒ムツの歯に関しては冒頭でも述べたが、エキストラにもクロシビカマス(スミヤキ・ヨロ)、タチモドキ、バラムツなど鋭い歯を持つ魚が少なからず。特にクロシビカマスとタチモドキの牙はムツ以上の切れ味を有すので、鈎外しはプライヤーやフックリムーバーを活用し、充分注意して行いたい。
魚が掛った鈎はもちろんだが、エサを盗られた鈎も先とチモト周辺ハリスの傷を必ずチェックする習慣を付け、先の甘くなった物や傷付いた、縮れたハリスは速やかに交換。次回投入に備える。

②ヘビータックルキンメポイントでの大ムツ狙い
釣法はその地区のキンメのスタイルに従って行う。 第1話「キンメダイ」ヘビータックルキンメの項と重複するが

投入
基本的に掛枠での投入。船長の合図に従い、舳先、又は艫から順に仕掛を下ろす。
合図と同時に投入できるよう、全ての準備を整えておく。船長は潮の流れと人数を計算して投入ポイントを設定するが、ここには「モタ付き、失敗によるロスタイム」は基本的に含まれていないから、合図で投入できない場合は「一回休み」を厳守する。
投入の遅れは自身だけでなく、「後から投入する同乗者の仕掛が着底時にポイントから外れる可能性がある」事を忘れずに臨んで欲しい。
投入時は片手で握った掛枠を海面に対し45度程度に構え、合図と共に錘を「落とす」(放り投げると捨て糸が切れる場合有り)。これで仕掛はパラパラと順序良く海中に投入される。
この時、リールはフリーにせず、仕掛が全て海中に入ってからスプールをサミングしつつフリーにするのがポイント。予めフリーにすると投入のショックでバックラッシュする、ヨリ取りの重さで道糸が先に海中に入り、手前マツリするなどのトラブルとなるからだ。投入時のトラブル軽減にヨリトリ器具ホールド用クリップを活用するのも一手だ。

アタリ~追い喰い
船長の計算通りに着底すれば直後、時にそれ以前(この場合は「喰い上げ」となる)にアタリが出るが、そうは上手くは行かないのが現実。アタリが無ければ速やかに糸フケを除き、錘が海底を船の上下でトン、トンと叩く状態をキープしてアタリを待つ。
竿や海況による底の切り具合や底を取り直す頻度など、一尾目を喰わせる誘いのテクニックが各自の腕の見せ所、釣果に差が付くポイントだ。但し東京都新島沖などでは潮が速い際「ラインを張らずにどんどん送る」の指示が出る事も。
アタリをキャッチしたらすぐに船長に合図、も忘れてはならないポイント。どの辺りで喰って来たか、どんな反応で喰ったのか、次回投入の判断材料となるからだ。
アタリ後の操作はポイントや潮況、操船スタイルにより異なる。
大別すると

  • パターン1
    「そのままの状態を維持」…斜面を登らず、横方向に流すスタイル。錘を宙に浮かせず、さりとてラインは弛めずにキープ。糸フケ分は巻き取り、深くなったらその分だけ落とし込んで追い喰いさせる。
  • パターン2
    「アタリ毎に幹糸間隔、又は糸フケを順次巻き上げ、常に錘は海底から1m程浮かせておくイメージ」…LTキンメと共通するカケ上がりに正面からぶつけるスタイル。
  • パターン3
    「錘を着底させ、テンションをキープしつつ船の移動分道糸を送り続ける」…いわゆる「新島沖釣法」。アタリが出たらクラッチを切ってラインをリリース。錘を着底(根掛り)させ、「海底に対して30〜45°の角度でラインを送り込み、より多くの鈎を反応の中に入れる」のが新島キンメ追い喰いの基本テクニック。竿先のテンションを維持した状態で船長の巻上、若しくは糸送りストップの合図が出るまでラインを送り続けるが、テンションが強すぎると仕掛けが移動して反応から外れてしまうし、錘が根掛りしていれば捨て糸が切れて仕掛が浮き上がり、早々に回収となる可能性が。(捨て糸が切れて仕掛がフケた所で喰うケースもあり、潮況次第では捨て糸が切れても巻上合図までそのまま待て、の指示が出ることもあるが)

さりとて闇雲にラインを送り込んで仕掛が海底を這ってしまうとアナゴやソコダラなどが喰い付き本命の追釣が望めない、複数の鈎が根掛りし仕掛が回収できない等、トラブルの要因にも。
竿先が一定の角度で曲がりつつ、ラインが張った状態を維持して送るのが基本だが、潮の遅速やポイントにより「弛め気味」「伸ばすな」など、投入毎に船長から細かな指示が出るケースもあり、アナウンスを聞き洩らさぬ様留意したい。
例えば「壁」と呼ばれる断崖絶壁ポイントでラインをリリースすれば、仕掛が斜面に貼り付き、100%回収不能。底トントンでアタリをキャッチしたら決してラインを送らずに船長の合図を待ち、根掛りさせた錘だけを捨てて巻き上げる。6m以上の捨て糸はこのポイントでハリの根掛りを防ぐための設定だ。
何れにせよ、アタリ後の糸送りで釣果が決まる、としても過言ではない。糸送りは「新島釣法」の要と心得て、船長のアナウンスを聞き逃さず、確実に実践する事が肝心。指示と異なる仕掛操作は自身の釣果のみなず、オマツリ誘発など同乗者に多大な迷惑が掛るため、決して行ってはならない。 

巻上
投入同様、船長の指示に従って行う。基本的に錘が付いるパターン1&2は最初からドラグを充分調整した低速気味で、緩急を付けず一定のペースで巻く。但し錘が切れている場合はある程度スピードアップし、錘が無いための「糸フケ」や魚が自由に泳ぎ回る事で発生する同乗者とのオマツリを防ぐ配慮を。
パターン3は「先に巻き始めた仕掛けを追い越さない巻上速度設定」が回収時のオマツリを軽減するが、捨て糸が切れた場合はラインが「立つ」まではある程度の速度で巻上げ、以降スローダウンする。巻上開始時は実水深より余分にラインが出ているのを踏まえ「巻上時間を短縮して効率を上げる」と、オモリが無い事によるオマツリの軽減を意識した物。この釣法でも錘が残っている場合は最初からドラグを調整した低速気味で緩急付けず一定のペースで巻くが、錘が無くても極端な早潮で終始前方にラインが走っている(若しくは同等の操船)ケースでは「錘有り」同様に終始低速気味で行う。また、巻上中に次回投入する仕掛を準備しておく事も忘れずに。
如何にサメをスピーディーに処理し被害を最小限に抑えるか、が重要なのだ。

通常オマツリは「上から順に解いてゆく」が、サメがハリ掛りしていたらそんな事は言っていられない。仕掛けがグチャグチャになろうが構わず、先ず「サメが掛かっているハリスをカットする」が最優先。応用が利かない同乗者とのオマツリでアカムツ付ラインをロスとした苦い経験が事が幾度もあった。2~3本バリのアカムツ仕掛は複雑に絡んでしまったら解くよりもサルカンの付根でカットして幹とハリス付ハリに分解、深海簡易結びで結び直す方が余程スピーディー。「何番目のハリに掛っていようと、一番最初にサメの処理」を徹底したい。

捨て糸の切り方
意図的に根掛りさせる③新島釣法の場合、巻上は捨て糸を切る事からスタートする。 先ず糸フケを完全に巻き取り、ロッドが絞られた状態で一旦巻上をストップ。ドラグを目一杯まで締め込み、船の移動で捨て糸が切れるのを待つ。仕掛けを這わせ過ぎて鈎が根掛りし、容易に処理できない場合はタックルを傷める前に速やかにラインをリリース。船のボーズなどに巻き付けて切る。リールの巻上力に任せて強引に引き千切る行為はギアやロッドを傷める、キーパー脱落等のリスクを有し、厳禁だ。

取り込み
キンメ仕掛若しくは下部連結の場合、効率優先で仕掛の再使用は考えない「一投使い切り」が基本のスタンス。玉網のアシストを受けつつ仕掛をどんどん船内に引き上げ、速やかに新しい仕掛をセットして次回投入に備える。
※鈎数10本程度の専用仕掛は磁石版を用意して鈎を並べながら取込み、次回投入後に掛枠に巻いて2組を交互に使用する回収~再使用も可能だ。


黒ムツ釣りに役立つ!?ディープマスターのワンポイント

黒にはビッグ、赤ならスモール。ターゲットで変わるベイトサイズ。
同じようなサイズでも黒ムツは大振り、アカムツは小振りのエサを好む傾向がある。ある日の東伊豆沖、黒赤両狙い5本鈎仕掛では、黒ムツの確率が高い早朝には下鈎と一番上のみ小振りのサバ(下がアカムツ、上は混じりのフウセンキンメ狙い)、センター3本はサンマの半身斜め半割のビッグベイトを配す。日が高くなる中盤以降はアカムツメインで下2本と一番上がサバ、3~4本目をサンマとし、思惑通りに3魚種全てを手中に収めた。もちろん、ビッグベイトにアカムツやキンメがアプローチする場合も、その逆もあるが、要は「確率」の問題。深海バケのカラーも同様だが、自らのセレクトで思惑通りの結果が出れば「より面白い」釣りになるハズだ。

喰うは一刻。チャンスを逃がすな。
何の魚でも終日ダラダラと喰い続く事など殆どないが、黒ムツ(特に大型)釣りでは特に顕著に感じる事が多い。かつて真鶴沖で3人で5.6~5.8kg3本含む大ムツ7本(+鈎外れ3回)を開始2時間でキャッチ、8時に早上がりの爆釣を体験したが、この話には続きがある。我々が帰港するのを見て直後に別船がポイントに入るも、以降バラムツとの入れ喰いとなり本命は型見ず。
別の日には朝イチからバラムツ入れ喰いでリールがオーバーヒート状態で水を掛けながら巻き上げ、昼前に仕掛が底を突き急遽船上で製作と、正に辟易したが。午後2時、バラムツの猛攻がピタッと止むと本命連発。終日攻めて船中型を見れば御の字の釣場を2名3回流しで2.6~4.5kg4本(鈎外れ1回)を筆頭に、こと大ムツでは「ワンチャンス」で勝敗が決した事は数知れず。
このタイミングを逸すれば本命を手にする事は叶わない。 喰うのは一刻だが、深所の大型狙いでは必ずしも朝一と夕方が好機ではない。何時訪れるか知れない「その瞬間」にベストコンディションで臨むべく、ラスト一投まで気力・体力を温存する「ペース配分」もこの釣りの重要な要素となる。

メダイが釣れたらティータイム!?
メダイは多くの黒ムツポイントで姿を見せる魚。大型は釣趣、味覚共にゲストフィッシュとして充分に通用する存在だが、この魚が活発に口を使うのは潮止り間際。専門狙いではそれまで全く口を使わなかった反応が投入毎に全員ヒットの荒喰いを見せるが、潮が完全に止まると再び沈黙。ある意味非常に判り易い魚でもある。ゆえにこの魚が鈎掛りして来たら潮止り間際。黒ムツの「チャンスタイム」は終了の合図でもある。ここでシャカリキに攻めても結果は殆ど望めない。必要最低限の棚取り直し&根掛り回避で「一服」し、次のチャンス迄気力・体力を温存するのが得策。特に終日の大ムツ狙いなど長丁場では好機に「全集中」すべく、ペース配分は必須。「空回り」しないためにも自身のみならず、周囲の釣果も常にチェックする習慣を持ちたい。

クロムツはエビがお好き?
深海魚の多くは採集時は胃袋を吐き出す「反転胃」となるため、内容物が残らず食性の解明は難しいが、黒ムツではごく稀に鋭い歯に胃内容物が掛って残る事がある。神奈川県真鶴沖では6kg弱の大ムツにアカザエビ、静岡県初島沖では中型個体にショウジョウエビ(深海性の真っ赤なエビ)が口内に残るのを確認した。
千葉県南房総の中型狙いで「紅色やピンクのフラッシャーサビキが有効」とされる事も含め、エビ類が主食の一部なのを疑う余地はない。但し釣りエサとしては専らサンマ(禁止地域あり)を筆頭にサバやイカの短冊、カタクチイワシや小型イカの1尾掛けが使用され、現状エビ類はほぼ皆無。「本物」ではエサ持ちやコスト、効率に問題があるかだろうが、エビ型、ザリガニ型のワームには少なからず可能性を感じる。テレビやYouTubeで紹介された「ストローで作るエビ」とか、面白いかも!?


黒ムツ料理

「黒ムツ」本来の旨さが出るの少なくとも1kg以上、生食なら脂の乗りと身肉の舌触りに優れる2kg前後~3kg未満を推す。4kg以上では熟成させても筋が口に残り、身の肌理にも粗さを感じる。大物は西京漬けや味噌漬け、煮付け等の加熱調理が良い。
小型(40cm未満)は脂の乗りが未熟で肉質も水っぽさが否めず、塩焼きや煮付けがお勧めだ。
尚、ウロコの剥がれ易い本種は必ずビニール袋で包んでから海水氷のクーラーに収納。氷との摩擦で鱗が剥がれ、身肉が水を食い劣化するのを防ぐ。極上の味覚を損ねずに持ち帰るための一手間だ。

活け造り

材料:丸魚一尾(1.5~2.5kgがベスト)/山葵/大根/大葉/穂紫蘇/紅蓼/パセリ/柑橘類(レモン・スダチ等)

調理

  1. 魚は胸鰭周辺(カマ部)以外の鱗を引き、鰓・腸を除く。鰓を外す際、付根を切らない様、注意。腸は腹鰭から肛門の間を切って取り出す。活け造りでは尾・頭も料理の一部。見た目が汚くならない様、注意する。
  2. 中骨に頭・カマを付けたまま三枚に下す。左半身は背鰭に沿うように包丁を入れ、背骨に切っ先を当てながら中骨を擦る様、尾に向かって切り進む。
  3. 魚を180°回転させ、腹側は尾の付根から包丁を入れる。背側と同様に頭に向かい、肛門まで切り進む。
  4. 尾の付根から包丁を入れ、背骨中央を頭に向けて切り進む。腹骨の付根を断ちながら、首の付根まで切る。
  5. 頭頂部から胸鰭下を袈裟切りし、左半身を外す。
  6. 右半身は頭をまな板から外して下す。身が反り返らず、頭を落とした状態に近付くので、下ろし易い。 右は背側が尾から頭、腹側は肛門から尾に向けて包丁を入れ、以降は左側と同様に切って身を外す。
  7. 腹骨を剥き取り、枝骨を毛抜きで抜き取る。大型なら背節・腹節に分けこの時枝骨を削ぎ落とせば毛抜きで抜く手間が省ける。
  8. 皮を引く。湯引きや焼き霜造りを盛り込む場合は後述②③を参照。
  9. 平造り、若しくは削ぎ切りにする。バリエーションとして鞍掛け(平造りのセンターに切り込み)に切り、レモンスライスを挟む「レモン〆」。
  10. 削ぎ切りの尾側をクルリと巻いて芯とし、これに削ぎ身を版の小さい物から順に巻き付け、形を整えると「花盛り」になる。
  11. 大根でツマを作る。尾と頭を固定する台も大根を使うので、この分は残しておく。13.尾・頭を皿に盛る。見栄えよく形を整え、竹串や楊枝を使って大根の台に固定する。
  12. 大根のツマ・大葉を敷いて盛り付けの土台を作り、刺身を形よく盛り込む。
  13. 穂紫蘇、パセリ、柑橘類、山葵などを彩りよく添える。

湯引き
材料:皮付きの半身、若しくは柵/山葵/大根(ツマ)/人参(ツマ)/大葉
調理

  1. 柵は表皮を上にしてまな板に置く。
  2. 表皮にまんべんなく熱湯を掛ける。この時布巾を掛けると均等に熱が回る。
  3. 氷水にくぐらせて粗熱を除いて水分を拭き取り、冷蔵。
  4. 充分に冷えた所で皮ごと引いて盛り付ける。

※皮を引かないので身との間にある脂を落とさず、脂の乗りが未熟な個体を生食する際にお勧めの調理。ゼラチン状になる表皮の食感も秀逸だが、あまり大型だと脂が強過ぎる、表皮が厚く口に残るなど、今一つの場合も。

焼き霜造り
材料:皮付きの半身、若しくは柵/山葵/大根(ツマ)/人参(ツマ)/大葉
調理

  1. テフロン加工のフライパンを熱して表皮を押し付け、焼き目を付ける。
  2. 表皮が縮んで反り返ったら裏返し、身側が白くなる程度に軽く炙る。
  3. このまま冷却せずに引く、湯引き同様に冷却してから、の選択は各自の好みで。
  4. ツマを敷いた皿に盛り付け、穂紫蘇、パセリ、柑橘類、山葵などを彩りよく添える。

胡麻漬け
材料:刺身(残り物で可)/醤油/味醂/スリゴマ(白)/大根(ツマ)/人参(ツマ)/大葉/穂紫蘇など
調理

  1. 醤油・味醂を1:1で合わせた割り醤油を火にかけ、沸騰寸前で止めて冷まして漬け汁を作る。
  2. 刺身を器に入れ、漬け汁をヒタヒタ程度に注ぐ。
  3. 好みの量のスリゴマを振って和え、一晩冷蔵すれば完成。一人前を器に盛り付けて供する。

※刺身の残りを活用した一品。

西京漬け
材料:切身/西京味噌/味醂/日本酒/塩

調理

  1. 切身に軽く塩を振り、3時間冷蔵する。
  2. 西京味噌500gに酒・味醂各50ccを加えて練り上げ、味噌床を作る。
  3. 切身の水気を拭き取り、味噌床に漬け込む。直接漬け込んでも構わないが、味噌・ガーゼ・身・ガーゼ・味噌の順に挟んで漬け込めば味だけが染込み、焼く時に味噌を落とす手間が省ける。
  4. 2~3日漬けると食べ頃。味噌床から出して(直漬けは味噌を洗い落とし、水気を拭いて)1枚ずつラップに包み、冷蔵、または冷凍保存。

※ベニアコウ、クロムツ、キンメ、アブラボウズなど脂のある魚、メダイやマダラなどアッサリ系の何れも可能。画像はベニアコウの調理。

煮付け

材料:丸魚、切り身、兜の半割など、鍋のサイズや供する状態を踏まえて選択/濃口醤油/日本酒(又は味醂)/砂糖/根生姜又は粗挽き黒胡椒
調理

  1. 丸魚は鱗、鰓、腸を除き、盛付時に上となる左側に浅く切れ込みを入れる。味の滲み込み易さだけでなく、皮が破れて見栄えが悪くなる事を防ぐ配慮。肝は一緒に煮るので捨てずに残す。
  2. 水3:醤油1:酒(又は味醂)1:砂糖1/4を合せて良く混ぜ、生姜の薄切りを加えて強火で煮立てる。生姜を粗挽き黒胡椒少々に置き換える(筆者宅ではこちら)方法も。味醂を使う場合は砂糖の量を減らすが、各調味料の割合はあくまで目安。サッパリ系の魚では薄く、脂の強い魚は濃い目(水を減らして酒や味醂に置き換える)が基本だが、最終的には各自の好みで調整する。煮汁は多目の方が焦げ付きなどの失敗が少ない。
  3. 汁が煮立ったら灰汁を掬い、魚と肝を入れて煮る。
  4. アルミホイルで落し蓋をする。煮汁が上側まで回り、かつ吹き零れない様に火力を調整。灰汁を除きながら10分程煮る。調理時間は魚のサイズや形状(丸・切身・兜)により調整する。
  5. 崩さないように皿に盛付けて供する。

※画像は兜煮

ムツ仔の煮付け
材料:ムツ卵巣/醤油/味醂/根生姜又は粗挽き黒胡椒/木の芽
調理

  1. 卵巣は一口大の輪切りにする。
  2. 水3:醤油1:酒(又は味醂)1:砂糖1/4を合せて良く混ぜ、根生姜の薄切り(若しくは粗挽き黒胡椒)を加えて強火で煮立てる。味醂を使う場合は砂糖の量を減らすが、各調味料の割合はあくまで目安で各自の好みで調整する。煮汁はやや多目の方が焦げ付きなどの失敗が少ない。
  3. 汁が煮立ったら灰汁を掬い、卵巣を入れて煮る。切り口から卵の粒が煮汁一面に散るので、通常身とは一緒に煮ない。
  4. アルミホイルで落し蓋をする。煮汁が上側まで回り、かつ吹き零れない様に火力を調整。灰汁を除きながら10分程煮る。 小鉢に盛って供す。用意できれば木の芽を添える。

黒ムツという魚
釣りシーンでの「黒ムツ」とはスズキ目ムツ科に分類される標準和名ムツとクロムツの総称であり、2種は区別する事は殆どない。

ムツ
スズキ目ムツ科 Scombrops boops
分布:北海道以南~九州南岸の太平洋と日本海。東シナ海、朝鮮半島、南アフリカ
鋭い歯と剥れ易い大きな鱗を持つ。幼魚期を堤防周りや磯場などの浅海で過ごし、成長と共に深海に移動。成魚は水深200m以深を中心に棲息する。この生態に起因するかは不明だが「背骨曲り」の奇形が他魚より多く見られる傾向。クロムツよりも広範囲に分布し、南方海域では1.5m・20kgにも成長する。全身が褐色だが第1背鰭は前半が褐色、後半が透明。側線鱗数50~57、側線上横列鱗数6~9、側線下10~15と何れもクロムツより少ない。

クロムツ

スズキ目ムツ科 Scombrops gilberti
分布:福島県~伊豆半島太平洋岸
分布範囲はムツに比べ狭い。鋭い歯と剥れ易い大きな鱗(ムツよりは小さい)を持つ。幼魚期を堤防周りや磯場などの浅海で過ごし、成長と共に深海に移動するムツと同様の生態。各鰭を含めた全身が紫掛った黒褐色である点、側線鱗数59~70、横列鱗数側線上8~9、側線下14~17と鱗の数が多い点で識別される。
深海域には「ムツ」と名の付く魚が何種か棲息するが、スズキ目ムツ科に属する「本家」はムツとクロムツの2種のみ。(アカムツはホタルジャコ科、バラムツ、アブラソコムツはクロタチカマス科)共に外観や生態がよく似ており「釣りの世界」では2種を区別せず「黒ムツ」と呼ぶのが一般的。
筆者が深海釣りを始めた昭和50年代初めは東京湾口深場釣りのトップターゲットにして代名詞的存在。 久里浜、剣崎松輪、三崎、小網代など三浦半島には専門の乗合船も多かった。中でも久里浜の老舗船宿「ムツ六」が「ムツ釣り名人の榎本六蔵船長」=「ムツの六蔵」。 

これを略して宿名となったのは有名な話。
地域により中深海域の中型個体をその体色から「キンムツ」「ギンムツ」と称したり、沿岸に棲む幼魚を「アカムツ」と呼ぶケースもあるが、これらはいずれも俗称。東北の「ロクノウオ」は江戸時代に仙台の伊達藩主が「陸奥守(むつのかみ)」なので「ムツ」と呼ぶのを憚り、「むつ」を「六」に掛けたと言う物。「オンシラズ」は幼魚期を浅所で暮らし「親と一緒に住まない」からとされる。
標準和名クロムツは研究が進んでおらず「生態や生活史がムツと殆ど同じ」以外、不明な点が多い。「ムツ」の語源はムツこい(脂っこい)説が有るように、脂肪の乗った白身魚。キンメダイやアコウダイ同様に「昭和の後半」頃から食の評価が急上昇した魚だ。
春の彼岸の頃抱卵した個体を「彼岸ムツ」と呼んで珍重するのは「身より卵が高価」だった時代の名残だが、現在は(サイズにもよるが)年間通して高値で高級~超高級の括り。釣りとは異なり、市場では2種を明確に区別し「クロムツがより高値」とされる。